中小製造業の技術経営(その8 戦略策定)

1.分析結果に基づく事業戦略の策定

 前回までで外部、内部環境分析が終了し、自社のコアコンピタンスについても自覚できたことと思います。

しかし分析しただけでは成果が得られません。これらの分析を踏まえて、ではどうすれば良いのかを考え、実行計画に落とし込み、さらにそれを実行して初めて果実が収穫できるのです。

今回は、この戦略策定ステップについて解説します。


2.SWOT分析は外部/内部環境と正負の軸で整理

 外部内部分析ではとにかく関係しそうな環境項目を網羅的に書き出しました。分析の過程で経営者の頭には、ある程度何をすべきかが浮かんでいることと思います。しかし効果が期待される活動は山ほどあって、リソースの限られている中小企業ですべてに着手すると、いずれも中途半端に終わる危険性があります。ここはじっくり分析結果を整理して論理的に戦略を考え、優先順位を設定して実行しましょう。

 環境の整理にはSWOTチャートを使うのが一般的です。内部環境における自社の強みをS(Strength)、弱みをW(Weakness)、外部環境で自社に有利な項目をO(Opportunity、機会)、不利な項目をT(Threat、脅威)と4象限に分類することで、戦略検討に使いやすく整理します。

 この時内部環境がSかWかは判断しやすいのですが、外部環境はOなのかTなのか判断に迷う場合がしばしば発生します。例えば鉄道模型を作っている企業にとって外部環境である「好みの多様化」という項目は、趣味的な自社事業に大きく影響すると考えられますが、OともTとも取ることができます。そんな時はえいやッとどちらかに入れてください。どちらに入れても次のステップで戦略に組み込まれます。Tに入れたが戦略を考えたらやはりOだったとしたら、その時点で書き換えれば良いのです。どちらに入れるか分からないからといって記入しないと、次の戦略策定ステップでその項目が抜け落ちてしまうため、注意が必要です。

 SWOTそれぞれのセルにすべての分析項目を入れると巨大になってしまう場合は、この段階で戦略に影響しそうな項目各5、6件に絞っても構いません。


3.クロスSWOTで事業戦略を考える

クロスSWOTチャートでは、外部環境と内部環境を掛け合わせて戦略を検討する
図1.クロスSWOTチャート

 SWOTで環境項目が整理されたら、外部環境と内部環境の掛け合わせで戦略を考えます。これはクロスSWOTと呼ばれます。2x2なので4つの方向性が現れ、それぞれ次のようになります。


(1)SxO:機会に強みを活かすイケイケ戦略

 自社の強みが活かせる追い風が吹いているわけですから、これを積極的に捉えずしてどうしましょう。リスクに配慮しながらも、資金、人材を投入して機会を取りに行く決断が重要です。

(2)SxT:脅威に強みで立ち向かう対抗戦略

 世の中の傾向は自社にとって良くない方向に進んでいるわけですが、黙って見ているだけでは好転しません。その悪影響を自社の「強み」によって回避するために取り組むべきことを考えます。

(3)WxO:機会向けて弱みを反転させる補強戦略

 戦略の基本は強みを活かすことですが、そうはいっても追い風が吹く環境下で強みがないからとあきらめきれない場合は、弱みを少しでも補充、補完、補強してこの機会を取りに行こうとする戦略です。人材教育による補強がその一例ですが、時間がかかるため他社からのスカウト、外部委託、顧問採用なども候補となります。

(4)WxT:弱みを襲う脅威の影響を最小化する逃避戦略

 自社の弱いところに逆風が吹くわけですから、まともに立ち向かったらひとたまりもありません。ここは無駄な戦いを避けて嵐の通過を待つのが定石です。大丈夫だろうとタカをくくらず、最悪を想定して少しでも被害を減らす方策を練っておきます。


SWOTそれぞれ5項目あると、5x5=25件の4組で100個の組み合わせができます。検討は有益ですが、100個の戦略はいずれにせよ実行不可能ですので、記録するのは最大でも20件くらいとしましょう。SxOを中心に優先順位を設定し、その戦略を実現するための実行計画に落とし込んでいきます。



3.事業の成長をアンゾフで考える

アンゾフの成長マトリクスは新規進出方向を技術製品軸と顧客市場軸で考える
図2.アンゾフの成長マトリクス

 事業戦略の中でもSxOで積極的に事業を拡大する時には、新製品・新技術で拡大する方向と顧客ドメインを拡げて新市場に伸ばす方向の二つの考え方があります。どちらか一方が正しいわけではなく、前記のSWOTなどを苦慮して方向を決定する必要があります。ただし、新市場に新技術を投入することは、過去のデータでほとんど成功例がないとされており、厳に慎むことが重要です。これらの関係を提唱者である米国経済学者の名前を取ってアンゾフの成長マトリスクと呼び、図2に示します。

 例えば業務用の鉄道模型を国内の鉄道会社に納めていた会社が、電車に加えて駅舎や周囲の建築模型を従来顧客である鉄道会社に提案したり、従来の業務用鉄道模型をアマチュア鉄道愛好家に販売することは、失敗の可能性があるにせよ挑戦に値する新規事業です。しかし新たな製品である建築模型を顧客リストもない一般人に販売するのは相当の苦戦が予想され、成功確率はほとんどないでしょう。

 バブルの時期に儲かりそうというだけで、異業種からリゾート開発に参入した企業がありましたが、ノウハウも顧客リストもなかったためにことごとく撤退の憂き目にあいました。アンゾフ教授に言われなくとも分かりそうなものですが、いざとなるとうっかりやってしまうのが不思議です。新しい事業を始める時は、冷静に図2に照らし合わせて多角化ではないことを確認しましょう。

 どうしても多角化に進出したい場合は、一旦自社が保有する技術あるいは熟知した市場で新規プロジェクトに挑戦し、成功してから次のステップで当初の新天地に拡大すれば、時間はかかりますが失敗のリスクは格段に減らすことができます。


次回は、事業戦略の実行計画を実施する際のプロジェクト管理について解説します。

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