中小製造業の技術経営(その6 中小製造業の事業戦略)
1.中小製造業の事業
大企業であれば、複数の事業領域に複数の製品を扱っていることが多いものですが、中小製造業ではアイテムが多いものの、単一事業領域でものづくりしている場合が多いようです。
であれば事業間の注力バランスを検討するためのPPM (Product Portfolio Management)分析などは不要であり、比較的シンプルな事業戦略策定プロセスになります。中小製造業の事業戦略策定について考察します。
2.事業戦略策定の手順
事業戦略の手順およびそれに使われる手法類の関係を図1に示します。戦略は事業の目的を達成するためのリソース配分ですから、手順のスタートは事業目的の設定もしくは確認から始めるべきであり、そのためにそもそもの企業理念と事業ドメインの確認は必須です。前述のように中小企業では単一事業活動であることも多く、その場合企業理念は事業目的と近いものになるでしょう。
事業目的と対象ドメインが確認出来たら、外部・内部環境を分析し、その結果を掛け合わせて事業戦略を策定します。このプロセスで使われるツール類は、戦略策定そのものではなく前段の分析・調査を目的とするものが多いことが特徴です。
3.理念: MVPは企業の根幹
事業戦略策定というか事業そのものの第一歩はMVPです。ひと昔前のMVPは経営に必要なMission、Vision、Passionでしたが、今では企業理念ともいえるMission、Vision、Purposeでしょう。日本語にすれば「使命、展望、目的」となります。
企業の存在意義など、日々の仕事の中で考える機会はほとんどないものの、重要な経営判断で迷った時に自社のMVPと照らし合わせることで、思いがけずスルっと決まることもあります。
M,V,Pはいずれも企業の意思と意義を表すものであり、相互の差異は微妙です。単語の原義からすると、Missionはやらねばならないこと、Visionは将来的に目指すべき姿、Purposeは企業活動の目的であり、文章的には結構違うようにも見えますが、相互に深い関係性があるため、厳密に分けて考えるよりは、統合的企業理念 (Most Valuable Philosophy)としてふわっと(概念的に)考えて良い様に思います。
企業理念を決める時は次の3項目を盛り込むと良いと言われながらも、優良企業の理念を見ても必ず3つが入っているわけではありません。
(1) 自社が社会に何を提供するか
(2) そのためにどのように運営するか
(3) 社員はどのような思いで行動するか
何といってもこれらの中では、MissionでありPurposeでもある(1)が最も根幹です。すでに何十年もものづくりを続けてきた企業であれば、当然その製品や技術がここに相当するわけですが、社員が奮い立つために単なる「物や技術」をMVPにするのではなく、それを通じて実現される状態、例えば「〇〇によって社会を革新する」「お客様の笑顔を増やす」などを目指すことを勧めます。
また社会変化に応じてタイムリーに修正が必要な戦略、戦術と異なり、MVPは頻繁に変えるものではありません。少なくとも10年から20年は継続して、従業員の指針になるように熟慮したいものです。
Missionは右図3のように次の3項目の重なる部分に設定しましょう。
(A) 情熱を持って取り組める
(B) 自社が世界一になれる
(C) 経済的原動力になる
(A)が欠けると推進力が生まれず、(B)が欠けると競争に勝てず、(C)が欠けると事業継続に必要な資金が枯渇します。
次回以降、事業戦略策定の手順に従って、具体的な作業とそれに役立つツール類について解説していきます。
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