中小製造業の技術経営(その3 小規模ならではの利点)
1.中小製造業の傾向
前稿では中小製造業の特徴として従業員数、財務基盤、社長影響力が大企業と異なると記述しました。
本稿では以上の特徴から生まれる大企業に対して有利な面を列挙していきます。この部分を活かすことができれば、規模は小さくとも存在感を発揮出ますが、これらの特徴を十分に利用できていない企業は存亡が危うくなります。
2.中小製造業の利点1: 戦略の柔軟性と実行のスピード
社長の影響力が大きい、言葉を変えれば戦略策定にかかわる人数が少ないために、短時間で決定することが可能です。じっくり長期計画を立てる時の恩恵は大きくありませんが、緊急事態が発生した時や、思いがけない好機がやってきた時にその差は顕著です。
組織が小さいだけに、社長は社内隅々までの情報、状況を常に把握していますから、報告を待つまでもなく環境の変化に対して短時間に有効な判断を実施し、またその決定が末端にまですぐ共有されます。大きな企業が組織間の調整で手間取っている間に危機を脱し、あるいはチャンスをものにする可能性があります。
一方中小企業は経営の資質を持つ人材が少ないために世襲でなかったとしても、社長の任期が長めの傾向があり、30年を超えることも珍しくありません。長い任期の終盤は別ですが、初期から中期にかけては10年、20年先を見越した戦略を、自分の責任のもとに立てることができます。目先の利益だけではなく、長期的視点で設備や人材教育に投資することが任期後半に果実となって返ってきます。
3.中小製造業の利点2:ニッチ市場での活躍
従業員が少ないということで生み出す付加価値の総額には限界がありますが、それは事業運営コストの絶対額も少ないことを意味します。
売上5000億円の大企業であれば、新規事業といえど50億-100億円を目指すことになり、おいそれと良いネタは転がっておらす、明らかに良さげな事業は多くの企業が目を付けていて競争状態になりがちです。他方50人で売上10億円の企業にとっては、1億円の事業も非常に重要で、その規模の事業であれば大きな事業の隙間に多数存在し、大規模企業にとっては魅力に欠けますから、素早く対応すれば独占的にすなわち価格競争がなく高い利益を得られる可能性があります。
短期間での規模拡大は難しくても、得意分野に特化して極めて高い付加価値を上げ、その利益を従業員へ還元したり、次の事業に投資したりすることで、夢のある優良企業になることが可能です。
もちろん規模が小さいことで、浮かび上がる問題点も確かに存在します。
それについては次回記述することとします。
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