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中小製造業の技術経営(その1 技術経営の全体像)

1.技術経営の重要性

 日本製造業の総生産額は、1960から80年代にかけて急激に増加したものの、1995年以降は全く成長していません。モノ余り、人口の減少、東西冷戦終了による低賃金労働国という強敵の出現、近年では働き方改革などの社会的要因がありますが、同様の問題を抱える他の先進国ではこの期間も堅調な成長が続いています。

 その原因として、日本企業が高度成長期に生産技術(How to make)に注力し、技術を利益に転換する製品開発(What to make)の弱さが指摘されるようになりました。各国のROA(Return of Asset:資本利益率)を比較すると、日本製造業は欧米の半分程度と大きく見劣りします。これは高度成長期でもそうでした。諸外国では、自社の製品分野で競争力が低く利益が上がらないと見ると、さっさと撤退して得意分野に集中するのに対して、日本企業は苦難に耐え忍び、また業界内で協調して発展しようとする傾向がこの違いになって現れます。


 調査[1]によれば、創業200年を超える企業が世界で一番多いのは日本であり、世界全体の半分以上を占めるそうです。周囲を海で守られて大きな戦乱がなく、同一民族国家で協調的な社会であるため、安定的に経営できるという優位点がある反面、国際的な競争に対峙した時に弱いとも言えます。思いやり国家であることを維持しつつ経済強国となるためには、得意技術を事業発展に積極活用する戦略的な観点を、経営者だけでなく技術者も持って業務にあたる必要があります。

 このような環境から、近年の製造業は以前とは比べ物にならないほど、技術経営視点が期待されているのです。

技術経営の要素には、技術戦略、マーケティング、イノベーション、財務、人的資源、知的財産、ベンチャーなどがあり、研究開発・製品企画、製品設計・設備設計、製造などのプロセスと関係している
図1 技術経営(MOT)の構造

2.技術経営の構造

 技術経営の歴史は比較的短いため、扱う組織によって定義は一定しません。私なりに全体像をまとめてみたものを右の図1に示します。左列は製造業における製品具現化の手順、いわゆるエンジニアリングチェーンであり、右列は製造業に限定しない経営の各種要素を列挙しています。


 技術経営とは要するに、一般的な経営要素を製造業の業務プロセスに掛け合わせて考えるということになるわけですが、技術が関連するだけに他産業よりも「イノベーション」「知的財産」の重要度が高まり、開発や設備の投資額が大きいだけに「経済性」は独特の判断基準が必要となり、先進的な製品開発の重みが大きいといった特殊性があったりします。

 また図1左列の製品化プロセスで、製造よりは研究開発のマネジメントに比重を置く場合が多いようです。


 今回の連載では図の全体像を、中小製造業に照らし合わせて解説していきます。


3.中小製造業の技術経営

 そもそも製造業において大企業、中堅企業、中小企業の違いは何でしょう?

 中小企業基本法によれば、中小企業は「資本金3億円以下または常時使用する従業員数が300人以下」という定義しかなく、何をどういくら製造しようが構いません。

 ただし規模が小さいことによって一般に、分業に限界があって生産性が低かったり、財務や人的な資産が少なかったり、大企業より知名度が低いために採用が難しかったりします。  しっかりした中小企業は、独自の技術、ノウハウを蓄積していたり、大企業が実現できない大胆なあるいは迅速な活動によって独自のポジションを確立し、高い利益率や優秀な人材確保に成功しています。

 大企業とはやや異なる技術経営の視点がありますので、次回以降項目ごとに解説していきます。


[1] 韓国中央銀行, 「日本企業の長寿要因および示唆点」, 2008

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